■はじめに

このページでは「偏光板(偏光フィルター)」についての解説とともに当社で扱っている偏光板及び関連教材をご紹介しています。偏光板(厳密には直線偏光板)は大学や民間の研究所、液晶テレビのメーカーからもご注文をいただくことはありますが、このページは初心者向けの説明となっています。詳しいことは各章毎にご紹介している「探求キーワード」をご参考に、さらに理解を深めてください。

■偏光板とは


波の性質を持っている光は進行方向に対して直角に振動しています。(図1)

偏光板は特定の方向に振動している光だけを通過させる性質を持っています。(図2)
図2でAの方向を偏光板の透過軸、Bの方向を吸収軸と呼んでいます。(実際には、自然光はあらゆる方向に振動しています。)

 


「光は波の性質を持っている」「偏光板はフィルターである」と言われてもピンとこないのは、人間が肉眼で見るかぎり、自然界には「偏光」がまったく感じられないからではないでしょうか。

しかし「偏光」という言葉は知らなくても、サングラスをかけて湖畔や川辺に立つと、水面のまぶしい反射光が見えなくなることや、カメラの「PLフィルター」を使うと水面のキラキラ、ギラギラした反射光が消えることを私たちは知っています。サングラスやカメラのフィルターに使われている偏光板は肉眼ではわからない自然界の「偏光現象」を私たちに感じさせてくれます。

 

■偏光板の誕生

偏光は今から約46億年前、地球が誕生し、太陽の光がはじめて地表に届いたときから起きていたはずです。人間は自然界の偏光を感じることはできませんが、驚いたことに動物の中には空の偏光を利用しているものが存在します。たとえば蜜蜂は自分の巣の方向を空の偏光パターンから知ることができると言います。当社で販売している紙のように薄い偏光板を通して空を見上げると、偏光板の角度によっては確かに空の色が変わります。また天文学では惑星の偏光を観測することが、その惑星の表面や大気の特性を知る強力な手法となっています。

人間はいつごろから「偏光」という現象に気がついたのでしょう。19世紀のはじめ、フランスのマリュス(1775-1812)という科学者が(偏光板ではなく)方解石という透明な鉱物を通して窓ガラスに反射した夕日を観察している時、方解石を回すと空の明るさが変わることに気づきました。その後さまざまな研究がおこなわれ、方解石が「特定の方向に振動している光だけを通過させる」ということがわかってきたのです。

スコットランドの物理学者ウィリアム・ニコル(1770-1851)は1828年ごろ方解石を使って偏光を作り出すプリズム(ニコルプリズム)を発明しました。一定の方向に振動している光しかこのプリズムを通り抜けることができません。この方向を「透過軸」と言います。やがて透過軸が直交する2枚の偏光板(クロスニコル)の間に鉱物を置くことで、鉱物の鑑定ができることがわかり、鉱物顕微鏡の誕生につながっていきます。サングラスやカメラのフィルター、液晶テレビなどに使われている紙のように薄い偏光板は1920年ごろインスタントカメラで有名なポラロイド社を作ったエドウィン・ランド氏によって発明されました。



【探求キーワード】レイリー散乱、蜜蜂の帰巣、ニコルプリズム

■方解石と偏光板

さて、ここで方解石と偏光板を使ってあそんでみましょう。

これが方解石です。最近は透明度の高い方解石は入手がむずかしくなってきました。方解石には「劈開(へきかい)」という性質があり、結晶は特定の方向に沿ってきれいに割れます。白い紙に印刷した直線の上に方解石を置くと、こんな不思議なことが起こります。

方解石の透明な結晶を通して見ると線が二重に見えます。これは方解石の中に入った光が2つに分かれて進むからです。この現象を複屈折と言います。太陽光や照明の光は360度さまざまな方向に振動しながら進んでいますが、原子が規則正しく並んでいる方解石の結晶は向きによって性質がことなり、光が進みやすい方向、光が進みにくい方向にわかれます。このため方解石に入った光は直交する2つの偏光成分に分かれ、それぞれ異なる屈折率で進むため、物が二重に見えるのです。方解石を通して印刷物を見ると文字や図が二重に見えることはオランダの科学者ホイヘンス(1629-1695)が発見したと言われています。

この方解石の上に偏光板を重ねてみましょう。

グレーの偏光板を重ねたので少し暗くなっていますが、直線は2本から1本になりました。このことから方解石を通った光は偏光になっていることがわかります。偏光板は特定の方向に振動する光しか通しません。このため振動方向がことなる光はさえぎられてしまうのです。光が通過できる方向を「透過軸」と言います。もちろんウィリアム・ニコルの時代には紙のように薄い偏光板はなかったのですが。

【探求キーワード】劈開、結晶光学、ホイヘンス、複屈折、常光線、異常光線

 

■水晶球と偏光板

今度は偏光板を2枚使ってみましょう。透過軸が互いに直角になるように2枚の偏光板を重ねるとどうなるでしょう。

光を完全に通さなくなるので、真っ黒になります。このように透過軸が直角に交わる状態をクロスニコルと言います。


ここで水晶球の登場です。テレビのお宝鑑定番組では、出品された水晶球が本物かどうか、下に髪の毛を1本置いて、それが二重に見えるかどうか確かめています。水晶にも方解石と同じように複屈折の性質があります。さらにおもしろいことに・・・

2枚の偏光板(クロスニコル)の間に水晶球を置き、背後から光を当てると、水晶球の向きによっては虹色の同心円が見えます。これはガラス玉では絶対に見えないため、水晶球の鑑定方法の一つとして利用されています。透過軸が直角に交わる偏光板は光を完全にさえぎっているはずなのに、水晶球のような透明な鉱物の中には入射した光が鉱物の中を通過する過程で光の振動方向を徐々に変えてしまうものがあるのです。当社で販売している「ネコポスで送れる水晶球観察器」はこのような水晶球の性質を利用して、偏光板を使って虹色の同心円を観察することができます。

【探求キーワード】クロスニコル、旋光性、エアリースパイラル、円偏光、波長板

 

■光弾性

透明なプラスチック……身近なものではヨーグルトのスプーンやCDのケースなどを2枚の偏光板の間に置くとどうなるでしょう。

肉眼では見えない色が虹のようにあらわれます。これも複屈折の一種です。プラスチックなど透明な物質を成形するとき、あるいは外から力が加わった時、どこに負担がかかるかを視覚的に確かめることができます。これを光弾性(こうだんせい)試験と言います。株式会社シータスクで販売している偏光板は自動車工場でプラスチック成形品の検査にも使われています。

 

■偏光軸(透過軸)の見つけ方

肉眼で見ただけでは偏光板の偏光軸(透過軸)はわかりません。偏光板を通して太陽の光が反射している水面、家の屋根、車のフロントガラスなどを観察すると、偏光板の向きによっては反射が消えることがわかるはずです。
ここでは水を入れた洗面器を使って偏光板の偏光軸をみつけてみましょう。

洗面器に水を入れて窓辺に置いてみましょう

 

肉眼で見たときは、上の画像のように水の表面に外の景色が映り込んでいます。
偏光板を通して水の表面を見たとき、反射光が消えるように偏光板を回してみてください。

洗面器の水の表面の反射光が消えたとき、偏光板は水平方向に振動する光をさえぎったことになります。この場合、縦方向に振動する光は偏光板を通過するので、縦の方向を偏光板の「偏光軸」あるいは「透過軸」と呼びます。

カメラマンが湖や川を撮影するとき、水面のキラキラを抑えるために使用するPLフィルターには偏光板が使われています。

■仕様

現在、株式会社シータスクで販売している偏光板は日本化薬(ポラテクノ)のSKN-18243Pというヨウ素系の直線偏光板です。
厚さ 約0.2mm
最大サイズ 1000 × 620 mm
偏光度  99.9%
平均透過率 43.0%

 仕様一覧(英文)PDF

 

■商品のご紹介

偏光板 Amazon 楽天市場 Yahoo!
1000×620mm
620×500mm
250×250mm
125×125mm
枠付き偏光板

科学工作キット 偏光マジック ニコルのかべぬけ
地学教材 ネコポスで送れる水晶球観察器

 

 

■メタファーの話

ここからは教員の方に読んでいただきたいお話です。当社が偏光板に添付している参考資料では「縦縞模様の長方形」を偏光板のイメージとして掲載していますが、これはあくまでも「偏光板には方向性がある」ことを示すためのメタファー、つまり隠喩(いんゆ)だということです。偏光について解説した書籍やネット上で散見されるイラストには簾(すだれ)、格子、スリットを図で示し、そのすき間を光の波が通り抜ける様子が描かれることが多いようですが、これらの図が偏光板の物理的な構造を示しているわけではありません。当社が偏光板の学習用に販売している科学工作キット「偏光マジック ニコルのかべぬけ」では偏光板を巻きすにたとえています。これもメタファーの一種と言えます。

それでは偏光板の実際の構造はどうなっているのか、調べてみましょう。普段私たちが「光」と呼んでいるものは一般には可視光を指しますが、実はこれも電磁波の一種です。電磁波は電場と磁場が振動しながら伝わる波動です。下の図のように電場と磁場は互いに直角に振動しています。


偏光板に関わるのは電場(赤線)の振動方向です。偏光板はPVA(ポリビニルアルコール)にヨウ素分子(または染料)が整列した構造を持ち、整列した分子方向の電場成分は吸収され、これと垂直な方向の電場成分だけが通り抜けることができます。

もう少し詳しく探ってみましょう。紙のように薄い偏光板の製造工程では「延伸」という加工が必須です。PVAフィルム上のヨウ素分子は「延伸工程」で一定の方向に引き延ばされます。ヨウ素分子は長軸、つまり引き延ばされた方向は電子が動きやすく(導線性が高く)、同じ方向に振動している光(電場)のエネルギーを吸収します。下の模式図の右側を見てください。縦方向にヨウ素分子が並んでいます。当社の偏光板の参考資料に掲載している図と比べると、透過軸の向きがことなっていることがおわかりでしょうか。


繰り返しになりますが、光の波が簾(すだれ)やスリットのすき間を通ることを図で示すのは、あくまでも「偏光板には方向性がある」ことを示すメタファーだということです。

理科を専門にする教員の方々にこのようなお話をするのは釈迦に説法、河童に水練であることは重々承知していますが、ネット上で調べた限りでは「偏光板には目に見えない細いスリットが並んでいます」というような表現が散見されることを思うと、メタファーと実際の物理的構造が混同されているのが現実ではないでしょうか。

 

偏光板以外にも私たちがよく目にするメタファーには次のようなものがあります。

最新の量子力学の研究では、電子は雲のように原子核のまわりに広がっているとのことです。しかし私たちがよく目にする原子モデルでは「中心に原子核があり、そのまわりに電子が存在している」ことを示すため、原子核と電子を小さな太陽系に見立てて、目に見えない原子の構造を示しています。偏光板のはたらきを説明するときも目には見えない「ヨウ素分子の配列」を「光は格子(スリット)のすき間を通り抜ける」というメタファーに置き換えることで、偏光板には方向性がありフィルターの役割をしていることを直感的に示すことができます。小中学生向けの説明ではこれで十分だと思います。高校・大学向けには「偏光板はヨウ素分子が規則正しく並んでいて、長軸方向に振動している光(電磁波)が吸収される」という内容に変えていくことが大切ではないでしょうか。

 

本サイトの制作にあたり下記の書籍を参考にしました
すぐ使える付録つきつくる科学の本 第一巻
 株式会社シータスク 足利裕人編著

・現代人の物理1 光と磁気(改訂版)
 朝倉書店 佐藤勝昭著

・新版 顕微鏡観察シリーズ4
 岩石・化石の顕微鏡観察
 地人書館 井上 勤監修

・ポラロイド伝説
 実務教育出版
 クリストファー・ボナノス 千葉敏生訳

・偏光板・位相差板入門
 サイエンス&テクノロジー株式会社
 岡田豊和著